付き合って少しした頃のお話です
春白についてはこちらにまとまっています。
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春白 いつかのメリークリスマス
ニキ燐 ワンライ「甘えんぼ」
「ただいま……っと?」
「あ、燐音くん。おかえりなさいっす」
靴を脱ぎ、部屋に一歩入ろうとして燐音は思わずぎょっとした。テーブルの上には既に溢れんばかりに料理が並んでいるというのに、ニキの手元で揺れる中華鍋には大皿山盛り分はありそうな野菜炒めが勢いよく踊っているのだ。
「あはは、なんか最近ストックしてたレシピ試してたら、気がついたら作りすぎちゃってて……これで最後っすから、もうちょっとだけ待っててほしいっす」
そう言ってへらへらと口元だけで笑いながらフライパンを揺するニキの横で燐音は手を洗うと、冷蔵庫からビールを取り出し鞄をベッドに放った。缶を開けるとプシ、と燐音の大好きな音がして、こぼれそうになる泡にすかさず口を付ける。旨ぇなぁ、と思いながらキッチンの方を見ると、いつもより少し強張った背中のニキが皿に料理を盛り、手早くフライパンを洗っている所だった。
「さーできた!あったかいうちに食べるっす~!」
そう言って持ってきた料理も、既に並んでいた料理も、当たり前のようにどれも美味しそうで
「いただきます」
と言って二人で手を合わせる。
「んー、この野菜炒め、ちょっといつもと調味料変えてみたんすけど、これはこれでさっぱりしてて美味しいっすね」
まずはできたての物に手を付けながら、ニキがべらべらとお喋りを続ける。曰く、新しく入った料理人から教わったレシピなんだとか、最近スーパーの鮮魚コーナーに珍しい魚が入りやすくなっただとか。
「我ながら、この照り焼きは上手くできたと思うっす。お酒にも合うんじゃないっすか? 飲めないからわかんないっすけど」
ロケで行った先で食べたスイカがびっくりするぐらい瑞々しかっただとか、この前出た大食い番組の反響がすごく良かっただとか。よくその勢いで食べながら喋れるもんだと感心しながら、燐音はビールを飲みつつそれぞれの料理を少しずつ摘んでいた。
ニキは「強い」けれど、自分の気持ちを自覚したりそれを言葉にするのが上手くはないから。時々こうしてちょっとだけ、燐音の前でだけ「おかしく」なるのだ。それが、なんでだかはわからないけど燐音にとっては嬉しくて。こうして酒を飲みながら少しおかしなニキを浴びるのは、燐音にとって最高の「御馳走」だった。
だから、いつものように喋りまくるニキに「うん」とか「ああ」とか適当に相槌を打って、酒を飲んでいたら。気がつくと、むぅっとむくれた顔をしてニキが燐音を睨んでいることに気がついたので
「んだよ」
燐音はそう声をかけた。
「なんか、燐音くんも喋って下さいよー。僕ばっかり喋ってたら食べる暇が無いっす」
「はぁ? お前散々今まで食ってただろうがよ」
そうは言いつつも、ニキの顔がいつもの呑気な表情になっているのを見て密かにほっとすると
「そうだ、俺見たいやつあるんだった」
と言ってテレビを付けた。
「もー! 燐音くんて、いつも好き勝手っすよね~」
そう言っておかわりに席を立つニキの背中が柔らかさを取り戻していて、やっぱりこっちのニキの方がいいなと燐音は思った。
「ニキちゃーん、なんか缶が空になったー」
と軽くなった缶をぶらぶらと揺すって見せると
「はー、ほんっとこの人、年上の癖にちっちゃい子みたいっすねー」
とニキは呆れながらも冷蔵庫から新しいビールを取ってくれたので
「へへ、可愛い子には優しくしてくれよなぁ? おにーちゃん♡」
と首を傾げてみせると
「バカなこと言ってんじゃないっすよ、この年上のヒモ!!」
と言って、ニキはよく冷えたそれを燐音のおでこに押しつけた。
