ハッピーギフト

付き合って二年目、同棲一年目のお話です。
春白についてはこちらにまとまっています。

「こっちとこっち、どっちが可愛いと思いますか?」
 クリスマスの装飾に華やぐショッピングモールの雑貨屋で。二つのブランケットを見比べながらそう尋ねる彼女に、由紀夫は思わず「麗蘭」と答えそうになったがそんなことはおくびにも出さずに「右の方がれいのパジャマには合うんじゃないか」と答えた。麗蘭が部屋でモコモコのブランケットを膝に掛けた姿を想像すると正直それが何色だろうが可愛かったし、雑貨屋で眉をハの字にしながら悩んでいる今の時点で既に十分可愛いのだが、「何でもいい」が多くの場合女子に禁句であることは由紀夫も理解していた。
「ああ、わたし用じゃないんです。この前、みちるとクリスマスプレゼントを交換することになったって話したの、覚えてますか。これ、可愛いし暖かそうだしいいかなって思って。みちるにだったらどっちがいいと思いますか?」
 そんなのますます何でもいいと由紀夫は思ったがそうとは言えないので「普段はどういう色が好きなんだ」と聞くと、「明るい色が好きそうですけど、案外こういう深めの色も似合うと思うんですよね。悩むなぁ……」とつぶやきながら隣にあった別の種類のブランケットも手に取りだした。
 みちるは麗蘭と同じ定時制高校に通う、麗蘭と同い年の女友達である。おそらく学校で一番仲がいいのか、麗蘭から聞く学校の話の中で一番登場する頻度が高いのはみちるだったし、写真を見せてもらったこともある。いわゆる「ギャル」と呼ばれるであろうタイプの彼女と大人しいタイプの麗蘭の気が合ったというのは不思議な組み合わせだなと思ったが、みちるの話をするときの麗蘭はいつも楽しそうだった。
 麗蘭は決して頭は悪くないのに家庭の事情で中卒で、だけどやっぱり「高校生活」を送ってみたいという夢を叶えたくて定時制高校に入ったのだから、そこで友人ができたというのは喜ばしいことだった。由紀夫は麗蘭の交友関係に口を挟むつもりはなかったし、同世代の同性の気の合う友人ができて嬉しそうにしている麗蘭を見ていると良かったなと素直に思ってもいた。だがしかし。
「みちる、センスがいいからきっと何か素敵な物を選んでくれてる気がするんですよね。いつも良くしてもらってるから私もみちるに喜んでほしいなって思うんですけど、プレゼント選びって難しいですね」
 みちるは、みちるが、みちるの。麗蘭がそう名前を呼ぶ度に、由紀夫は内心少しだけ面白くなかった。だって、彼女は友達で。自分はいわゆる「彼氏」だと言うのに。なんだってあっちが「みちる」で、こっちは「春日さん」なのだ。こっちの方が付き合いは長いし、麗蘭のことを名前で呼んだのだってこっちが先だ。「麗蘭は恥ずかしがり屋だから名前で呼んでくれるのにも時間がかかるだろう」と思うことで自分を納得させていたというのに、みちるには出会ったときに「麗蘭って呼んでもいい? あたしはみちるでいいからさ」と言われたらしく、麗蘭はみちるのことは初めから名前で呼んでいた。
 そこで「俺もそろそろ麗蘭に名前で呼んでほしいんだが」と素直に言えればいいのだが、そこで言えないのが由紀夫という男であった。学生時代、同い年の彼女と付き合っていた時だって格好をつけたかったのに、ましてや一回り近く年下の彼女にそんな恥ずかしいことを言えるはずがない。
 とは言え、今の由紀夫は唯々本当に「年が上」なだけの男であった。裏稼業を抜けたとは言え世の中がそう簡単にハイそうですかと許してくれる訳もなく、二人で働いても広いとは言えないアパートで生活するのが精一杯。女性が年上男性に一番求めるであろう収入という名の甲斐性を、由紀夫は全く持ち合わせていなかった。
 付き合って二年、一緒に暮らし始めてからはもうすぐ約一年が経つが、麗蘭は経済的なことについて文句を言ってきたことは一度も無かった。それどころか、文句らしい文句も言われたことがない。「気持ちは嬉しいですけど、春日さんの自由に使えるお金は春日さんのために使って下さい」や「喉が痛いときは少しだけ煙草をお休みした方がいいんじゃないですか」と言われたことはあるが、それは文句と言うよりは由紀夫のためを思ってのお願いである。
 本当に、俺にはもったいないぐらいの女だな。そう思いながら由紀夫が黙って傍に立っていると、やがて麗蘭は「これに決めました」と言って深い赤のブランケットを手に取ると会計を済ませにレジへと向かった。

「みちる、喜んでくれたらいいな。こういう女友達とプレゼント交換みたいなのってするのが初めてだから、ちゃんと選べてるか自信ないんですけど」
 店を出て、大事そうに袋を見つめながら歩く麗蘭もとても可愛かったけれど。本当に大人げないな、と思いながらも「今、ここで一緒にいるのは俺なんだが」と思いながら、由紀夫は繋いだ手をいつもより少しだけ強く握りしめた。そんな由紀夫の気持ちに気付かぬまま麗蘭はご機嫌に歩いていたが、ふと由紀夫の方を振り向くと
「でも、みちると仲良くなれたのも春日さんのおかげなんですよ。ありがとうございます」
 と言ってきたので
「え、あ、そうなのか?」
 と由紀夫は少しびっくりしながら答えた。
「多分、春日さんと付き合う前の私だったらみちるの優しさを素直に受け取れなかったんじゃないかって思うんです。私なんかに優しくしてくれるだなんて何か裏があるんじゃないかって思い込んで、自分から距離を取ってしまったんじゃないかなぁって。でも、春日さんが私に毎日優しくしてくれたおかげで、この世の中には信じていい優しい人もいるんだなって前よりは思えるようになったんです。だからみちるともこんなに仲良くなれたんだろうなぁって。そういう意味でも、春日さんには本当に感謝してるんですよ」
 言ってから恥ずかしくなってきたのか、麗蘭は急に誤魔化すように早口で「夕飯、お鍋でもいいですか。今日はアパートの近くのスーパーが白菜の特売日なんで、買って帰りましょうね」と言って、出口に向かって歩き始めた。そんなところがやっぱり可愛くて由紀夫は思わずその場で抱きしめてしまいたくなったが、そんなことをしたら怒られてしまうので「ああ、わかった」とだけ答えたけれど、家に帰ったら玄関で絶対に抱きしめてやろうと考えていた。


 麗蘭からのプレゼントを大喜びしたみちるが「彼氏と一緒に楽しめる物にしたから、家で二人で開けてね♡」と渡してくれたプレゼント――セクシーサンタコスプレ衣装によって二人のアパートに激震が走るのは、数週間後の話である。

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